第二の手紙

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 私は、ここの門を通った時、悪い予感がしました。でも、いわば社命ですので、言われたとおりに医師の質問に答え、テストのようなものをやらされ、脳波検査を受け、そして、即日入院の手続きがとられました。  そのときは、もちろん抗議しました。なぜ入院の必要があるかの説明も求めました。しかし、心の病いは自覚症状がないのが普通であること、今私は非常に不安定な状態にあること、入院といっても二・三日様子を見るだけであることなどを聞かされたまま、すべてが進んで行きました。  その日から、今までとはまったく違う生活が始まりました。目覚し時計を幾つもかけて起き、どんな小さなスキも見せないようにお化粧をし、戦場に行く兵士のように身支度を整え、満員電車に揺られ、大勢の人の中で緊張し、背伸びをし、虚勢を張り、自分の能力をフル回転させてきた、そういう日々とは正反対の、淡々とした毎日が続くようになりました。  ただ、今思い起こしてみても不思議なのですが、どういうわけか、そのような生活に突然投げ込まれたショックというのはすぐに消えていって、そうして、この施設での生活のリズムが私の中を流れ始めました。  それは、もしかすると飲まされた薬のせいではないか、などと考えてみたこともありましたが、やはり、そのとき私は、本当に疲れていたのかもしれません。確かに、私は、全力疾走をしていました。
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