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僕が座っている廊下の椅子のすぐ近くには待合室があって、そこでは十数人の人々が、前の方に置かれたテレビに視線を投げている。テレビは、有名女優が朝帰りの現場を写真に撮られたとかで、芸能レポーターだか何かが、大事件であることを強調する自分の口振りに酔うようにしきりとまくしたてていた。が、そこにいる人々は、そのテレビが必死になって盛り上げようとしていることに何ら反応を示さず、それでも画面からは目を放さずに、無表情なままで時間がたつのを待っている。
僕は、息苦しさを感じて、やりきれないような思いで『外来者はご遠慮ください。』と書かれたドアを開けて中庭に出た。
かび臭い空気が消え、夏草の香りがそれに変わった。明るい陽射しを浴びて紫陽花が申し訳けなさそうにうなだれ、花壇に植えられたサルビアの赤だけが鮮やかだった。ねっとりと空気の澱んだ建物の中と比べて、そこは楽園だった。どうせ三十分くらい待たされるのならばこの中庭を散歩しようと思い、とりあえず大きな伸びをした。
その時、丁度反対側のドアが開いて、一人の少女が中庭に出てきた。
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