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――誰か助けて
何度そう叫びたいと思ったか分からない。
でも、それが? 助けを求めたところで、大声で叫んだところで、それが一体何になるっていうんだろう? はっきりいって無意味。
どれだけ助けを求めたところで、誰も助けてなんてくれない。
無意味なことはするべきではない。あたしは、口まで出かかったその言葉をぐっと飲み込んで、押さえつけるように歯を食いしばった。唇が切れたみたいで口の中に血の味が広がる。苦い。だがこれでいいんだと自分に言い聞かす。この苦みは今あたしが、生きている証――もっと言うと立ち向かっているってことだから。
助かりたければ強くなるしかない。自分を助けることができるのは、誰かじゃない。自分しかありえないのだから。そう。助かりたければ、自分で戦うしかないんだ。
深く息を吸い込んで瞳を開く。――目を背けたくなるような現実を直視する。
今あたしの目の前には、悪魔がいる――黒い悪魔が。悪魔は、全身を漆黒の鎧に包み、六本もある細い手足には、鋭い爪が無数に生えている。動きも素早く、その上、狡猾で意地汚い知性まで持ち合わせている。
そんな恐ろしい悪魔が今、あたしの部屋の真ん中に陣取っている。理由は分からない。悪魔はいつだって理不尽だ。ただ家に帰ってきて電気を付けたら、奴はもうそこにいたのだ。まるで、そこが最初から自分の領土であったと言うかのように自然に……
正直かなりビビったし焦った。
少しの前のあたしだったら、部屋の隅で震えていることしかできなかったと思う。けど今は違う。
――やってやる。ここから出て行け悪魔め。
救いを求める声の代わりに、武器を手に取る。
大丈夫。悪魔が現れることは、想定済みだ。この日の為に用意した奴らへの専用武器を両手で握り締める。
気配を殺したままで悪魔へと近づく。
幸い、奴はまだ、こちらの存在に気づいていない。
そのまま、うまく悪魔の頭上をおさえることに成功する。後は攻撃を食らわすだけだ。左手に持っていた武器を悪魔に向けて構える。
――よしっ。今だ。
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