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「貴方の考え方は間違っている!貴方の言う論理的な解答しか出来ないのが人間だとしたら、初めて人工知能が開発されたはるか昔に貴方の研究は完成しているじゃあないですか。今までの研究のすべては無駄ですよ」
「先達たちが積み重ねてきた崇高な研究を否定するのか」
「先達たちではない。貴方を否定しているのです。貴方がやっているのはロボットを人間にする事ではない。人間をロボットにしようとしているだけじゃあないか。ゾッとする笑い話だ」
「貴様!誰に向かって……私を愚弄するのか」
博士は顔を真っ赤に怒りを剥き出し、鈴木に向かう所をいつの間にか戻っていたチーフに羽交い締めにされた。
「佐藤、エリザの部品を回収しろ。鈴木、お前は歩いて帰れ」
チーフは怒りに我を忘れて叫ぶ博士を車まで引きずって車内に押し込め、佐藤は周りの停止した車の列に頭を下げつつ、立ち尽くす鈴木をちらちらと伺いながら壊れた部品を回収し始めた。
博士を車に押し込みトラックの運転手との交渉を終えたチーフも手伝い、エリザのすべてを回収し終えると
「ちゃんと戻れよ」
とのチーフの言葉だけを残して、鈴木一人を置いて走り去って行く。
事故による渋滞は解消され、やがて車の行き来も無くなった。
独り残った鈴木は、アスファルトに光る何かを見付けた。
地面に這いつくばらなければ確認する事さえ出来ないそれは、ネジだった。
エリザの基盤を止める小さなネジ。
指を押し付けるとくっつくほどの小さな小さなネジ。
指先についたこのネジは、エリザを構成していた確かな一つだ。
鈴木は拳を握り締め、エリザを想って泣いた。
エリザと同じ、涙を零した。
あれから2年後……
2100年4月。エリザのパーツを流用した最新AIロボットが完成した。
起動を見守る鈴木は、目を開けた彼女に挨拶をする。
「初めまして。僕は……」
「鈴木さん、ですね」
「どうして僕の名を?君は……エリザなのかい?」
彼女は不思議そうに首をかしげて微笑みを浮かべた。
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