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エリザの生活は研究施設の中だけではない。
研究費の援助や投資などを募る為、様々な場所に連れまわされ、衆目の中で会話をする役目をこなす。
緊張し恥ずかしがる態度、答えに迷い顎に指を置くしぐさ、宙を泳ぐ視線。
声のトーンやまばたきのタイミングまで、正体を告げられるまで彼女を人間と思わない者はいなかった。
中には、最後までロボットである事を信じようとしない者までいるほどだった。
当然、出資候補者達の返事は色良いもので、その点については博士も満足していたが、車中での博士は不満顔であった。
「賓客のプロフィールと会社のリストは事前に渡してある。それを読めばどんなものに興味を持って、どんな質問が来るかは予測出来るはずだ。人間なら当然そうする。それを何の用意も無しにその場で答えを考えるとは」
車の助手席から後ろも向かずに小言を言う。
「博士、ゲストは皆、エリザを絶賛して『人間そのものだ』と喜んでいたではないですか。答えに迷う姿も人間ならではのものですよ」
後部座席から、エリザの隣に座った鈴木が反論した。
「素人は上辺だけで判断するからそう思うだろうが、本来、人間ならば来たるべき問題を事前に考え、答えを用意するものだ。論理的、合理的に物事を考えられなければ人間とは言えんよ」
その言葉に更に反論しようとするが、エリザを挟んで隣に座るチーフが、もう余計な事は言うなと目配せをする。
エリザはずっと下を向いていた。
エリザたちを乗せた車は、研究施設近くのコンビニの駐車場に停まっていた。
運転役の佐藤が、トイレが我慢出来ないと到着を目の前にしてコンビニに飛び込んだのだ。
チーフもついでの買い出しに店内に入り、佐藤とエリザは外で気分転換の空気を吸った。
「まったく、出発前に予測して済ませておけんものかね。佐藤もエリザと変わらんな」
助手席の窓を開け、博士がまた小言を言う。
「まあ良いではないですか。チーフも買い出ししたかったみたいですし」
そう言った鈴木は、エリザがいつの間にか隣に居ない事に気付いた。
左右に目をやると、エリザが道路側に歩いて行くのが見える。
その先、道路の反対側に子猫が見えた。
エリザを見付けたその子猫が駆け寄って来る。
「エリザ!」
鈴木が叫ぶのと同時、エリザも駆け出していた。
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