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子猫を身体で包んだエリザをトラックが跳ね飛ばす。
人間になる為に作られたエリザは、耐久性もまた人間と同等だった。
身体は千切れ、エリザを動かしていた基盤やモーターがばらばらと散らばる。
エリザは自分で自分の中身を見て目をつぶった。
鈴木は駆け寄り、エリザを抱き寄せた。
「エリザ、エリザ」
「子猫は……無事で……すか?」
目を開け、途切れ途切れの音声を出す。
その声には感情が乗せられていなかった。
感情を感じとる事が出来なかった。
「無事だよ。君が守ったんだ」
「良かっ……た」
子猫はエリザの腕の中で、元気に爪を服に引っ掛けて遊んでいる。
エリザはその目いっぱいに鈴木を映した。
「すみません……すみま……せん……すみ……ません」
「大丈夫だ、しっかりしろ。何を謝っているんだ?」
「すみませ……ん。やっぱり私……はロボット……でした」
周囲には、ばらばらとエリザの破片が転がっていた。
エリザは表情を変えずに涙を零して泣いた。
「君は何も悪くない。謝る必要なんてないんだ」
「怖……いです。停止し……てしま……うの……が、怖い……」
「大丈夫、大丈夫だよ。博士がすぐに直してくれる。すぐに元通りになれるよ」
エリザは何も言わなくなった。
「なんて事だ!」
代わりに後ろから、頭を抱えながら叫ぶ博士の声が聞こえた。
「自身と猫の価値の重要度すら判断出来ないとは、とんだ欠陥品だ」
「博士、それ、本気でおっしゃっているんですか?」
鈴木の声は震えていた。
「本気とはどういう意味だ?猫一匹の命の方がエリザより価値があるというのかね?エリザ一体にどれほどの資金と時間と労力が掛かったと思っている。どちらの価値が上か、選択以前の問題だろう」
「確かに正しい選択ではなかったかもしれません。しかしエリザは、尊い決断をしました」
「尊い?その場の思い付きの衝動に支配され、論理的な思考が出来ない事が尊いだと?愚かな行為の間違いだろう。エリザは失敗だった。今回の事故でそれが判明した事をせめてもの幸いとし、次は別のアプローチで実験をしてみる事にしよう」
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