古く慣る

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窓を開ければ庭園に降りる事が出来、石畳の道を歩いて苔と池の味わいを全身で感じられる。 シノコは押入れから黒檀の円卓を引っ張り出し、布巾で拭った。表面は綺麗に波模様で光る。 それを見てシノコは満足気に笑った。 ※ 七時を少し過ぎると、日は沈んで、漆を塗ったように空が黒くなる。 宿の前には店の者が十数人、その端にシノコとチヨが並び、その隣で女将が無表情に客を待っていた。 彼女達の背中に居を構える三階造りの宿は、玄関に『くにがしら』と達筆で書かれた木版を掲げ、その壮高たる容殿に橙色の提灯の明かりを溢れさせてあった。 「遅いねぇ」 女将が目の前に伸びる商店街の活気付いた道成りをひたと見つめ、呟いた。 客は予約の時間から既に三十分も遅れているのだ。 女将は二本の細い腕を胸の前で組み、さらに二本の美しい腕を腰に当てて立っている。女将がこういう風なポーズをするのはいつも苛ついている時だけだ。 そして女将がそうする時、決まってシノコも二本しかない小麦色の腕を捲り、同じように小さな胸の前で組む。 しばらくして、目の前の商店街が騒めき、幾千にも連なった提灯の明かりが一斉に揺れた。 鈴の音がシノコの耳には聞こえた。 大勢の揃った足音が響く。錫杖が音を絡ませがら近づいて来る。
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