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ちらりと佐緒里を見る。彼女は笑ってはいなかった。不思議そうな顔で俺を見ている
「俺は小さな部屋にいて、テーブルをはさんで若い男と向かい合っていた。男は高そうなスーツを着て、髪を茶髪に染めていた。銀縁メガネをかけていて、そのメガネがなければまるでホストのような優男だ。銀縁メガネは俺から写真を買い取ろうとしていた。二千万、そして三千万と提示する金額が上がっていった。
だが俺は首を縦に振らなかった。銀縁メガネは総理の回し者で、写真を売ってしまえば真実が闇に葬られることを知っていたからだ」
「あなたって夢の中でも生真面目なのね」
「茶化すなよ。とにかく俺は写真を売ることを拒否した。そうしたら銀縁メガネは別の提案をしてきた。写真を彼らの準備する別の物に差し替えてもらえないかと言うんだ。つるっぱげをそのままでは本人の名誉にかかわるので、少しは髪の毛があるように修正したものにしてほしいってな。
でも俺は拒絶した。それだって真実を覆い隠すことに変わりない。そうしたら……」
夢の続きを思いだして胸に冷たいしこりが生じた。
「銀縁メガネが合図したら、どこからかごつい大男が二人現れて、俺の両肩を掴んで押さえつけた。俺はあわてて叫んだ。写真のデータは別の場所にバックアップしてあるから力づくで取り上げようとしても無駄だってな。でも。心中は不安だった。まさかこいつら俺の命まで奪おうって言うんじゃないだろうな、たかがつるっぱげの秘密のために」
「すると、銀縁メガネが立ち上がって言ったんだ。そんなことはしません、あなたも秘密を守る側になってもらうだけですよ、ってな。そのとたん、俺を見下ろす銀縁メガネの茶髪がふわりと逆立ち、うねうねと動き出した。髪の毛一本一本が根元から毛先へ波形を描いて動く。ばらばらでありながらその動きは連動していた。ムカデの脚の動きのように頭頂部から周囲に向けて規則的なうねりが流れていった。ひとつの意思によって制御されているような動きだ。そして、髪の毛全体が塊りになって移動し始めたんだ。銀縁メガネの頭から離れ、顔の前、首、胸へと動いていった。残された銀縁メガネの頭はつるっぱげだった。髪の毛は銀縁メガネの身体を離れ、さわさわとこすれあう音をたてて俺の方に近づいて来た。その様子は、そう、映画に出てくる宇宙生物の幼生にそっくりだった」
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