第一章「うざくて面倒な男ですよね」

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男同士の恋愛というのは……というより同性同士の恋愛は、この国ではまだまだ許容されていない。 まだ偏見にさらされている。 残念ながら。 男が男を好きになるのは、でも仕方ないと思う。 むしろ人間は自分と異なる物を排除する傾向にあるんだから、異性を好きになるより同性の方がまだ受け入れやすい……かもしれない。 一言で言うと、男が男を好きになって何が悪い。 生物の理に反しているからNG? いやいや、動物の世界には同性愛の事例が数多くあるんだぞ。 ペンギンとか。 あの可愛い見た目で、同性愛者が多いんだぞ。 いや、そういう問題じゃないな。 ペンギンも同性愛を育んでいるんだから、俺だって男を好きになっていい……というのは理屈として破綻している。 人類と鳥類を同じ尺度ではかるのははおかしい。 だからといって、ペンギンがOKで俺がダメっていうのも理屈としておかしい。 広い目でみれば、両方とも生物だ。 いや、そういう話じゃなくて……。 「……小出さん、大丈夫ですか? さっきから天井の隅を凝視したまま固まってましたけど……」 後輩の声で我にかえった。 「……大丈夫」 隣のデスクから心配そうに俺の様子を伺ってくる後輩、渡部奈生(わたべ なお)。 長い黒髪にお嬢様みたいな容姿。 去年この事務所に配属されて以来、ずっと俺が教育係として面倒を見ている。 普段は"大丈夫?"なんて台詞、そのまま返してやるんだが……さっきは流石に大丈夫じゃなかった。 どうして俺はペンギンと人間を比較していたんだ。 全くどうかしている。 渡部は納得したような納得していないような、まさに微妙そうな顔をしていた。 けれど、何も言っては来なかった。
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