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「事実だから仕方ないんですが、他人事によくあそこまで首を突っ込めるものだと感心したくらいです」
牧野は将棋盤に視線を戻すと自分の駒を動かした。
パチリ、パチリ、と攻防が続く。
「…いろいろ、済ませたんですか?」
「いえ、これからです」
「源のやつ童貞ですし、たぶん、そういうことに疎いです。迷惑かけなきゃいいが」
「大切な跡取りの相手が男で良いんですか?」
「なんであれ色恋を知らねぇってのは情けない話じゃないですか」
「傷つけるかもしれない」
「男の傷なんて舐めたら治ります」
牧野の手が止まる。腕を組んで先の展開を考えてみるがどうしても詰んでしまう。駒を動かせない。
「…参りました」
「最後までやらないんですか?」
「負けは見えてますから」
「こっちがミスをするかもしれない」
「ふむ」
それなら、と手を伸ばそうとすると台所から声がかかった。
「ご飯できましたよ~牧野さんも食べていってくださいね」
この匂いはサンマだな、と牧野は思った。
…
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