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「嫌な予感はしてたんですよ、先生は明らかに執着してたし」
喫茶店のカウンターには二人の男が座っている。
「でも大の男が簡単に落ちるわけないと高を括っていました」
五席ある内の中央に座る男が項垂れて言った。その様子を見るや、マスターはカップを磨いていた手を止めてため息をつく。
「…守山さんが落ち込むことないでしょう」
「だって…同じ男として…いや、これから義理の兄弟になろうとする三並さんが童貞のままだなんて」
「義理って、気が早いんじゃないですか」
「もう一押しだと思うんです!」
「ただのボーイフレンドだって言ってましたけど」
「ふふふ、童貞の三並さんに女性の機微はわからないかもしれませんね」
童貞、と言われ気を悪くしたのかマスターは別のカップを取ると布巾で磨きはじめる。守山と呼ばれた男は構わず自分の話を続けていたが、それを遮るように低い声がした。
「うるさいよ、」
一番奥の席に座る男が言った。
「静かにコーヒーを飲めないのかい」
苛立ちをあらわにした物言いにも動じず守山はへらへらと笑う。
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