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「おしゃべりしたほうが楽しいじゃないですかぁ、先生も難しい顔して本なんて読んでないでお話しましょうよ」
奥の席の男はぐっと眉間にしわを寄せてからパタンと本を閉じた。
「それなら言わせてもらうが、努力をした結果だから」
守山は突然はじまった話についていくために頭を働かせる必要があった。
「きちんと外堀も埋めたし、簡単に落とせるなんて思って欲しくない。僕だから落ちただけだよ」
「はあ…」
「大体、マスターは童貞じゃない」
「え!」と守山は仰け反る。
「店内は下ネタ禁止です」
冷静を装っているが、マスターの表情には動揺が浮かんでいた。
「三並さん…知らずに馬鹿にしてすみません」
「馬鹿にしてたんですね、いいですけど別に」
「相手は年上でしょう」
「よくわかるね」
「だって三並さんがリードするなんて想像つきません」
「いや意外に」と何かを話そうとする男をマスターが慌てて制止する。
「下ネタ禁止です」
どうやら都合の悪いことがあるらしい、と守山は思った。
誰も口を開かない。外の雨音が店内を満たしていく。
…
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