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清々しい朝だった。洗濯物を干すくらいの役目しかない庭が朝露に濡れて輝いていた。
見慣れたはずの風景が新鮮に映る。源は縁側に佇み陽光に包まれた庭を眺めた。
ツツジ、サルスベリ、モミジ、ハクモクレン…どれも花をつけていないのにその枝ぶりや葉の色に目を惹かれる。
枯れ枝のようなアジサイまでも手前の艶のある岩との対比で情緒があった。
…岩?
「おはよう」
腰から腕を回される。少し冷えた体に体温が心地よい。
「牧野さん…あんなところに岩が…」
「うん?そうだね、立派な青石だ」
「三十年も住んでいるのに今の今まで岩の存在に気づきませんでした」
「生活に追われるというのはそういうことさ、」
牧野は愛しい相手の首筋に唇を寄せ軽く吸った。跡を残すと源が嫌がるので瀬戸際で離すのだが、その見極めがスリリングで気に入っている。
ぺろりと舐め、跡になっていないかを確認する。赤みはあるが今日も成功したようだ。
「気づくまでは言わないでおこうと決めていたんだ」
「…なにをですか?」
「庭石だよ」
源は牧野を見上げた。視線を合わせたところで言っている意味を理解することはできなかった。
「どういうことですか?」
質問に対し、「あの庭石は一週間前に僕が置いたんだ」との返事だった。
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