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「置いた?」
「そう」
「一週間前に?」
「ああ…気づいてくれて嬉しいよ」
牧野は源の顎を指で持ち上げ、ぽかんとしている唇にキスをする。最初は軽く、しだいに誘うように。
「んむ……っ」
腰骨から太腿の内側へ手を這わすと、ぎゅっと肩をつかまれた。
絡まっていた舌を糸を引かせ離す。
「する?」
源の表情が欲求との葛藤で色めいた。
「…しない」
断られても牧野は満足だった。むしろ本望。本当はしたいと思っているのにそれを我慢する姿が見たかっただけだ。
「お店あるものね」
生暖かい眼差しに、よからぬことを考えていると察知した源は牧野の腕を抜け出した。
「それよりっ、庭石なんてどこで買ってくるんですか!」
「兄が庭師でね、あれはジュラ紀から白亜紀に変成作用を受けた緑色片岩(りょくしょくへんがん)なんだよ。実に浪漫があるだろう」
「…適当なこと言わないでください。この前、お兄さんはマグロ漁船に乗ってるって言ってじゃないですか」
「それは二番目の兄の話さ、庭師は三番目の兄。うちは五人兄弟でね、長兄はベトナムで車を売っていて、唯一の姉は北海道で酪農をしているんだ」
牧野は「嘘じゃない」と念を押した。
源は分かっていた。牧野は嘘というものをつかない。だからこそ、牧野家の底知れなさになにも言えなかったのだ。
…
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