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グレンが苦しそうな顔をしていた。
「恋人同士に見えたかよ」
そう言うと、綺麗で端正な顔をもっと苦しそうに歪める。
「女と歩いてるだけで恋人同士だと思ったのは、それが自然なことだからだ。一般的だからだ」
ほらな?
よっぽどくっついて歩いてなきゃ、男同士で歩いていても友人と思われる。
男女での恋愛が大半だからだ。
ゲイじゃないんだから、余計にそうだろうが。
「一般的なんて関係ない。アキのことがっ」
「一時だけのものだ」
「君のことが好きだ」
今だけな。
今だけ。
そして、俺はそれを受け入れられない。
「男同士だって言ってるだろ」
「わかってる! そんなのわかってるんだ! 何度も考えた! でも! それでも、やっぱり君が好きだ」
受け入れてやればいいだろ?
こんな熱量を向けられてるんだ。
払いのけるのは一苦労だぞ。それなら受け入れて流して、向こうが気の済む程度まで相手をしてやればいい。
どうせすぐにこの男だって気がつくさ。
「どうしたいいのかわからないんだ……」
俺だって、わかんねぇよ。
「もう……」
お前のことばっか考えすぎてぐちゃぐちゃだ。硬い殻で覆って、隠していたのに。
「アキ……」
「俺は」
グレンが緑色の瞳を一心に向けてくる。
次の言葉が自分の望むものであることを願っている。
なぁ、でも、受け入れたら、俺はきっと流せない。
適当に流したりなんてできないんだ。
お前の全部が俺が長年かけて作ってきた殻を割って、生身の俺のところへ届くから。突き刺さって、苦しくて仕方がない。
だから、お前をどっぷり受け入れた後、やっぱり気の迷いだったと俺へ突き刺したものを抜いてしまったら、殻なら修復できるだろう。
でも、受け入れたら、殻じゃなく生身の俺に届いちまう。
そして、突き刺さって、息も苦しいほどお前で本当にいっぱいになる。
そのあとで、ふいっと、その手が俺から離れたら?
「怖ぇぇよ」
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