2258人が本棚に入れています
本棚に追加
「……アキ」
「ずっと考えてた」
「……」
紫陽花は紫陽花。
薔薇にはなれない。
「俺は男だぞ」
「……」
「キスくらいなら遊びだって言って自分を誤魔化せる。でも」
少し、自分の言葉に笑えた。
もう「誤魔化す」って言葉が出てきた時点で、俺の中の気持ちは形になってるから。
「好きになったところで男の俺を」
今は男の俺を好きだと思っていたとしても、いつか、ノンケのお前が女に戻っていくだろう時に、俺は女にはなれないんだ。
そして、その時に俺は元に戻れないかもしれない。
人の心なんてあやふやで不確かで、ずっと同じ形を保っていられない。
それをお前だってわかっているはずなのに。
「男の、じゃない」
紫陽花は紫陽花。薔薇は薔薇。
「君を、好きになったんだ」
俺は俺。
「それに、君はさっきからずっと俺の心変わりを心配しているみたいだけど」
「……」
「たしかに、人の気持ちなんてずっと同じなんてことはありえないけど、こうは思わない?」
グレンはグレン。
「今、君のことがとても好きだけれど、これはこの前、君と居酒屋へ行った時よりも大きく育っている」
「……」
「そして居酒屋に行った時は、雨の晩、君にキスした時以上に、君のことを好きになっていた。心変わりじゃない変化もあるだろ?」
さっきよりも昨日よりも、俺の頭の中、いや、それだけじゃなく全身がグレンでいっぱいになっていくように。
「どんどん大きくなって、最初はいいなぁ程度だった印象があっという間にここまで育った。植物なら、これ、すごい成長速度だ」
「……」
「だから、すごく困っていたんだ。溢れてしまうって」
会いたくて、今日は日曜で店はやっていないのに、それでも会いたい気持ちがアクアへ向かわせた。
会えなくてもいいから、少しだけ、散歩して発散しようと思ってた。
その途中で俺と酒屋の彼女が歩いているところを見つけた。
最初のコメントを投稿しよう!