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「それで、さっきの彼女は……」
「っぷ……」
「なんで笑うんだ」
だって、笑うだろうが。
お前の心変わりが怖いって言ってるんだぞ。
お前が俺をずっと好きでいてくれなかったらってビビってるっつってんのに、どうして、ここで話をさっきの酒屋の彼女のところまで戻すんだよ。
「グレン」
名前を呼ぶと、いつもキラキラ輝く緑色の瞳が一段と綺麗だった。
純粋で、透明で、眩しいくらいに輝いて見える瞳が、グレンを同じ歳に見せなかった。こんな眼差し向けられて三十二だとは思わない。
「男女で歩いてるからって、普通、全てが恋人同士とは限らない」
「……アキ」
その確率は高いかもしれない。
日曜の午後、男女で同じ歳くらいのふたりが歩いていたら、恋人同士である確率は高いかもしれない。
でも、それは「普通」なことではない。
ただ、そういう場合が多いってだけの話だ。
「彼女とはさっき、店の役に立つかもってワインの試飲会に行ってきただけだ」
「……え?」
「酒屋の彼女が招待してくれただけ」
「そうなの?」
「そうだよ。それと、俺もグレンのことが好きだよ」
「そうな……え?」
ゲイじゃないのに男を好きになる。
それは相当なことだと思う。
少なくとも俺にとっては、相当でかいできごとだ。
元々人を好きにならないはずで、しかも相手は外国人で、男で、なんてありえない。だからずっと自分の感情を否定し続けていた。
でも、もうぐちゃぐちゃで何も考えられなくて、そして、ポッと浮かんだのは。
「グレンのことが好きだ」
「……」
普通は好きにならない相手を好きになったら、それはよっぽどだと思う。
少なくとも俺はそうだ。
この思いは厄介なくらいに膨らんで俺を占領していってる。
好きだ。
そう言葉に出したら、本当に悪質だと溜め息をつきたくなるほど、その言葉が全身を駆け巡って止まらない。
どんどん膨れて、大きくなって、さっき、グレンが言った言葉と重なる。
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