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気がつけば横断歩道に差し掛かっていたようで、ぼんやりしたまま顔をあげると、同時に。
「陵ちゃんっ!赤よっ」
高い制止の声とともに強く腕を引かれて、はっとする。
クラクションを響かせて目の前を通りすぎる車と、赤く光る歩行者信号が遠くに見えた。
「沙耶香…なんで…」
「なんて顔してるの」
姉がいた理由が分からず、呆然と呟く陵介の頬に細い指先が伸びた。
そして、昔と同じように頬をふわりと包んだ。
「‥‥沙耶香‥俺は‥」
その手が暖かくて優しくて、ぎゅっと目を閉じると、零れた涙が沙耶香の手を濡らした。
「ホントはね、見てるだけのつもりだったの。けど、陵ちゃんがあんまりふらふらしてるから」
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