エピローグ

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扉に手をかけてから、ふと喫煙室のある方を仰ぎ見る。 一人の男性が懐から煙草を取り出しながら歩いている後ろ姿を視界に捉えて、俺は扉を開けるのをやめた。 これから喫煙室へ向かうのだろう。せっかちなその仕草が懐かしくて、俺は小走りに駆け寄った。 「近藤課長!」 振り返ったその顔は、相変わらずで向けられた笑顔に俺は安堵を覚えた。 「おー、相沢か。元気そうだな」 「退職されると聞いて…」 一課を訪れたのは、課長に会うためだった。 直属の部下ではなくなったが、彼には相当世話になった。 突然今月いっぱいで退職だと同僚から聞かされ、慌ててやって来た次第だった。 定年まで、まだ数年あったはずだ。 「早期退職ってやつだ。……冬に家内が倒れてな。…今度は俺が側に居てやりたくてな」
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