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欄干に手をかけたまま動こうとしない彼から、目が離せなかった。
哀しいという感情がもしも目に見えたなら、彼のことを言うんじゃないか。
そんなふうに思ってしまうほど、彼の背中が、頬を転がる雨とも涙とも取れない雫が。
陵介の足を引き止めていた。
ざあざあと降り注ぐ、雨の音。
髪から滴り落ちる、いくつもの雫。
彼との間を、通り過ぎる車。
白く弾ける、アスファルト。
そのすべてが、遠くなる。
まるで時間が止まってしまったように。
立ち尽くす陵介に、戻ってきた彼女が傘を傾けるまで。
陵介はその場所を動くことができなかった。
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