第11章 晩秋のひと時

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 病院関係者にも、まだ妹達には母親の病状を説明してはいないからと母同様に口止めをして、偽装結婚の件を上手く誤魔化した美子だったが、日が経つに連れて別な事で悩み始めた。 (やっぱりこの前の事は、幾ら何でも甘え過ぎよね……)  姉妹揃っての食事の最中、ふと悩んでしまった美子は、箸の動きを止めてしまった。 (改めてちゃんとお礼をするべきだとは思うけど……、『代金は全て自分持ち』だとあれほど強く言っていた位だから、お金は受け取ってくれないだろうし)  そして眉間に皺を寄せて、角皿に盛られているカレイの煮付けを凝視する美子。 (何か品物を贈るにしても、こういう場合にはどんな物を贈れば良いのか……。好みも分からないし)  そんな事を考えながら、端から見ると親の仇でもあるかの様にカレイを凝視している長姉を見て、妹達はこそこそと囁き合った。 「何か、また姉さんが変よね?」 「最近、まともな方が少ないと思うわ」 「やっぱり江原さん関係?」  そして美子の隣に座る美恵も、無言で面白く無さそうに姉を眺め、微妙な空気のまま、その日の夕食は終了した。 「美子姉さん、今、入っても良い?」  台所を片付けて明朝の準備も済ませた美子が自室で寛いでいると、美幸がひょっこり顔を出して尋ねてきた。それを怪訝に思いながらも、美子は鷹揚に頷く。
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