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 タツオはサイコといっしょに行動するテルの肩をたたいた。 「うちの班の指揮官を頼む。なんとか夜明けまで逃げ延びて、明日の全休を勝ちとろう」  テルは軍用義手で自動小銃を軽々とつまみ、弾倉が詰まったバックパックを背負った。義手を装着してから、身体全体がひと回りおおきくなったようだ。義手の圧倒的な性能を活かすには、生身の肉体のパワーが欠かせないという。 「まかせておけ。東園寺(とうおんじ)の姫の盾(たて)くらいにはなれる。サイコがおれより先に撃たれることはない。それよりタツオたちもあっさりすり潰(つぶ)されないようにな」  サイコはそれを聞いても涼しい顔をしていた。タツオとの会話に加わろうともしない。兄・カザンを試合の上の事故とはいえ殺してしまってから、ひと言も言葉を交わしていないのだ。  近衛(このえ)四家第一席・天童(てんどう)の家に流れる血継の呪力「魔眼(まがん)」をもつジャクヤが、首吊り岩の上で鋭く叫んだ。 「敵に動きがありそうだ」  ほぼ同時に甲3区敵側のエンドから、照明弾が打ち上げられた。一列に空にのぼった照明弾は光の滝のように、昼のように明るく広大な演習場を照らしている。物量と兵力にものをいわせたオープンな大攻勢だった。 「波が岩場を呑みこむみたいだ。指揮官を残して100名以上の敵が一気にこちらに向かって駆けてくる」  タツオは首吊り岩のジャクヤを見あげた。すぐ頭上にいるはずなのに、目に入らないのはもう自分の身体(からだ)を見えにくくする力をつかっているのだろうか。
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