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帰り道は無言だった。
優子おばさんの運転する車に揺られながら虚しい気持ちで窓の外を眺める。
見慣れた街の夜の風景。
ゆっくりと信号で止まり、窓にコツ、と頭を置いて真っ暗な空を見上げる。
白い満月。
こんな気持ちじゃなかったら、もっと綺麗に見えたんだろう。
「はぁ……。」
思わずため息。
喪失感、孤独感、何もかもひっくるめて、絶望。
全部終わったんだ……。
これが……、結末。
初めから分かってたのかもしれない。
淡い期待や、愛なんてモノでそれを見て見ぬフリしてただけ。
とにかく、もう……。
「蓮、ラジオつけるわね。」
ナビの画面をいじり、適当にラジオを流す優子おばさん。
『んー、やっぱり何度聴いてもいいですねー。』
再び車が動きだし、窓の景色が変わる。
静かだった車内が甲高い声のラジオDJによって少しだけ、騒がしくなる。
『さぁ、続いてはいよいよ一位の発表です!
後世に歌い継ぎたい恋歌、堂々の第一位は……!
尾崎豊 I LOVE YOU。』
“尾崎豊”という聞き覚えがあり過ぎる名前に耳が反応した。
窓から少しだけナビに目を移す。
『やはり来ましたねー。
誰しも一度は聴いたことのある名曲中の名曲。
改めて、満月の夜に聴いていただきましょう!
早速、どーぞ。』
儚いピアノの音と共に、その曲は流れ始めた……。
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