橘千夏 編

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まだ夏本番には少し遠い6月の中旬。 学校からの帰り、バスに揺られながら窓の外を眺める。 街の景色は少しずつ夏仕様に衣替えを始め、日暮れも遅くなった。 40分ほどすると風景が変わり、見渡す限り田んぼ、田んぼ、田んぼ……。 首にタオルを巻いたお爺さんがクワを片手に額の汗を拭っている。 ここまで来るとほとんどバスに人はいない。 いつもなら携帯を見るけど、バスの中では見ないようにしてる。 もう今年で中学から5年の付き合いになる友人の有紗がアメリカの爆笑動画を送りつけてくるから。 一度ツボると後がコワい。 バス停に到着。 「ふー、やっと着いたぁ。」 グッーと体を伸ばしてからカバンを持つ。 「吉浦小学校前ー! 吉浦小学校前ー!」 今日も運転手のおじさんは叫んでいる。 いい加減、アナウンス出来るようにしたらいいのに。 バスが止まり出口まで行って、運転手さんにありがとねー、とお礼を言うといつものように、はいょーぃ、と少し個性的な返事をくれる。 バスから降り、田舎丸出しのバス停で一人になる。 謎の液体によって見えない時刻表。 錆び付いて壊れた自転車にはアリがうじゃうじゃ。 色落ちした赤いベンチには穴が開いており、座れるような状態ではない。 「発車しまぁーす!」 プ、プシュー。 あっという間にバスは行ってしまい、私は彼との待ち合わせ場所へ向かった。
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