第1章

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 大音量に耳を塞ぐ。  子供じみた嫌がらせのように、ボリュームが最大になっていたのだ。爆音の中、焦ってボリュームボタンを探すが見つからない。 「何? どこ? ストップは??」  独り叫び、闇雲にボタンを押す。結局コンセントを引っこ抜いて、強制的にストップさせた。  やっと静寂が戻った。キーンと耳鳴りがする。  シャワーの隣人が怒鳴り込んできたらどうしようと、ハラハラしたけれど、何も言ってこなかった。  ほっとした私は、荷解きを再開した。  一通り終えると、何となく部屋らしくなった気がした。  住めば都。贅沢は言っていられない。  気持ちを切り替え、周囲を散策しようと外へ向かった。    あれから早1ヶ月。  今月でこの部屋の契約が切れる。  だからこそ、今日の大手地図出版の最終面接は絶対に負けられない。  出発時間まで少し余裕があるので、電気ポットでお湯を沸かし、シャワーを浴びた。  ドライヤーで髪を乾かし、スーツに着替え、冷蔵庫を開く。昨日スーパーで買った3個298円の焼きプリンを一つ取り出して、蓋をめくる。  風呂上がりのプリンは、就活中の私のプチ贅沢だ。  インスタントコーヒーをマグカップに注ぎ、しばし窓を眺めた。  今日も暑くなりそうだ。ネットの予報だと、来週から梅雨入りするらしい。  隣人は既に出かけた模様。  こんな怪しいマンションを借りるなんて異常者かもしれないと、自分のことは棚に上げ、私は隣人を恐れている。  隣人のシャワー音は、午前4時~5時頃聞こえ、午前10時から11時の間に玄関を開ける音がする。  夜のお仕事系に違いない。
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