第1章

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エリアEとHを造ったMの持論はこうであった、人間は精神的に成熟する前に文明が発達して、子供のまま大人になってしまった生物だ。 精神的に成熟するように修正が必要である。 修正にはそれなりの痛みを伴う事になるが、今人間は核戦争という破滅の道を突き進んでいるので、成熟した精神を持つ人間をエリアEに収容して核戦争を乗り切れば、その後進化する人間は、成熟した精神を持つ人間だけになるのではないかという考えであった。 しかしMの計画には誤算が生じる。 人種や民族を問わず全人類の中に少数存在した、精神的に成熟した人達。 ささやかな幸せを喜び、日々の行いを反省し1日1日を大事に暮らしている人達、彼らに声をかけたMに返ってきた返事は、皆同じような物であった。 「私は1日1日を楽しく暮らしています。 これから起こるかもしれない恐怖を思い描きながら暮らすより、充実した日々を生きて行きたい。 それに、私なんかより必要とされる人をシェルターに収容した方が、人類の為になるのでは?」 彼らの返事は、エリアEを建造するのに必要な場所の確保と、攻撃されない安全を手に入れる為に建造された、エリアHに収容を約束された人達から返ってきた言葉とは真逆であった。 Mは彼らをエリアEに収容する計画を修正し、別な提案を彼らに行う。 この計画には彼らも協力してくれた。 提案とは、彼らに精子と卵子を提供してもらい冷凍保存して、人工受精により人類の再生を行うという計画である。 私が目覚めた日から200年。 今日、最初の子供達が産まれる。 神が造ったエデンの園でのS(蛇)の役割は、知恵の実を食わせる事だけであった。 だがエリアE(エデン)での私、Sの役割は知恵を授けるだけではなく、子供達が精神的に成熟するように教育することも、Mから託された仕事の1ツである。
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