第1章

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円形の広い部屋の真ん中に1台のベッドが置かれ、臨終間近の高齢の男性が横たわっていた。 男性の身体には呼吸器や幾本ものチューブが繋がれ、命が尽きるのを先延ばしにしている。 ベッドに横たわっていても見える位置に設置された大型モニターには、数分毎に切り替わる音声の無い映像が、リアルタイムで映し出されていた。 映し出された映像。 飛行場で大型の輸送機に、次々と荷物が積み込まれている。 飛行場を囲むフェンス際には、着の身着のままで身体のあちらこちらに火傷や傷を負った老若男女が、助けを求め同乗させてくれる事を求めていた。 彼らは電流が流されているフェンスに阻まれ、強行突破しようとする者は、自動で狙いを定め撃つ銃座に蜂の巣にされている。 フェンス際で助けを求める者達の中には、赤ん坊や幼い子供を高く掲げ、掲げた者だけでも助けてくれるように哀願している親もいた。 次々と切り替わる映像は似たような物で、フェンス際で助けを求める人達を無視し、飛行機にヘリコプターに船に列車に自分の財産を詰め込み、安全な約束された場所に逃げようとしている人間達を映し出している。 安全な約束された場所に逃げ込もうとしている者達は、彼らが属していた国の大統領や大臣などの政治家、宗教指導者、それらの国の経済を支えていた金持ち、それに彼らの家族だった。 彼らが何故、安全な約束された場所に向かおうとしているのか?
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