第1章

4/9
前へ
/9ページ
次へ
入り口から続々と入って来る者達が持つブランド物のカバンやバッグの中身は、持つものが所属していた国の紙幣、金やプラチナの延べ棒、ダイヤモンドやルビーなどの宝石、ブランド物の服などである。 カバンやバッグを持たない者は、著名な画家が描いた絵を脇に抱えていた。 老人は彼の身体を覆っている毛布から腕を出し、枕元にあるマイクを掴み話す。 「S! 」 「はい、ご用でしょうか?」 「君と行った賭は成立しなかったな。 ハハハハ………………」 「そうですね、残念です」 「私は疲れた……後の事は頼む」 老人はそう言い、マイクを手放し目をつむった。 「分かりました、命じられた事を遂行します。 お休みなさい、M(マスター)」 Sは返事を返し、老人に繋がっていた呼吸器と全てのチューブをその身体から取り外した。 円形の部屋に通じる全ての電源を切ったとき、エリアEの周辺を警戒していた監視衛星から警告が発せられる。 内容は、致死量の放射能を大量に含んだ雲を伴う台風が発生して、北からエリアEの上空に向けて移動しているとの事だった。 Sは、エリアHの入り口に通じる道を大量の荷物を抱え歩く者達を無視し、無警告で北側の入り口から順に閉鎖する。 目指していた入り口が閉鎖された事に気が付いた者達は、慌てふためき目指していた入り口に取りすがり泣き叫ぶ者や、閉鎖されていない入り口に向けて走る者など、パニックに陥っていた。 北側から近寄ってきた台風は雨を降らせ、雨にあたった者は雨に含まれる放射能で被爆、運の良い者はその場で即死、運の悪い者はのたうち回りながら死んでいく。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加