0.プロローグ

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 高三の夏の事だ。その日は朝から胸騒ぎがした。でも、そんなの気に留めなかった広野晴太(ヒロノセイタ)は、いつも通り兄夫婦に見送られ家を出た。  けれど、その日の三限目の事。授業中に今まで関わった事がない教員に呼び出された。  その時の晴太はあまり深く考えず、なんだろう、とだけ思っていた。  授業中に寝た事も、無駄口を叩く事もない、至って普通な自分に、なぜ、そんな慌てた顔で呼びに来たのか。晴太は不思議で仕方なかった。  けれど、その慌てた表情を浮かべる相手の言葉を聞き、晴太はその場で崩れ落ちる。  その音を聞いて、授業中にも関わらず、幼馴染の藤岡英輝(フジオカヒデキ)が駆け付けてくれた。 「晴太ッ! どうした!?」  英輝は晴太が床に崩れ落ちている姿を見て慌てて駆け寄り、両肩を抱いてくれた。  そして、晴太が泣いているのを知り、只事ではないと感じ取った英輝は、優しく背中を摩り、落ち着けと何度も言ってくれた。  晴太は、そんな英輝に嗚咽を溢しながら小さく言葉を発した。 「兄ちゃん達……死んじゃった……っ」  本当は、信じられない、信じたくない。でも、目の前の教員がこんな嘘を付くはずもない。  英輝だって、切れ長の目を大きくして動揺していた。 「英輝……っ…俺……おれ……っ」  晴太は英輝に縋り付き、大きな声で泣いた。 「晴太……」  頭に浮かぶのは笑顔の兄と、子供を抱く義理の姉の姿。  誰か嘘だと言ってくれ。そう、思いながら、晴太は英輝の腕の中で泣き続けた。
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