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晴太にとって、兄の太陽が親代わりだった。
片親だった母親を亡くしてからは、年の離れた太陽がずっと晴太を面倒見てくれた。
そして、太陽の嫁である里子も、晴太の事を本当の弟のように可愛がってくれ、その優しい眼差しは少しだけ母親を連想させるほど優しい女性だった。
温かい家庭。そんな場所を、二人はずっと晴太に与えてくれていたのだった。
二人には、まだ一歳になったばかりの旭と言う息子もいて、更に明るい毎日になっていた。
そんな三人が、交通事故で亡くなるなんて夢にも思っていなかった晴太は、身体の震えが治らず、夏なのに寒ささえも感じた。
ただ、温かい部分は英輝が摩ってくれている背中だけで、その部分だけが晴太の心をなんとか繋ぎ止めてくれていた。
「先生、俺も病院に行くのを許可してくれませんか」
「英輝……っ」
「お前一人に行かせるわけにはいかない。俺も一緒に行く」
英輝はその教員に何度も頭を下げ、二人で太陽達が搬送されたという病院へと行く事を許可して貰おうとしていた。
最初は駄目だと言っていたその教員は、晴太の精神状態や、英輝の必死さが伝わり、二人で行く事を許してくれた。
英輝は了承を得るとすぐに立ち上がり、教室へと行き、二人分の鞄を持ってまた戻って来た。
「太陽さんが待ってる……お前を待ってる……」
そう言って、立ち上がれずにいる晴太の腕を持ち、優しく立ち上がらせてくれた。
「お前は一人じゃない。俺がいる。俺がお前の側にいる」
英輝の言葉はいつも力強く、優しかった。だから、ずっと昔から好きだった。
大好きだった。
「英輝……っ」
「頼りないけど……お前の恋人は俺なんだ。お前を想っている気持ちは、誰にも負けない。どんな時も、側にいる。だから、ゆっくりでいい、行こう」
英輝にそう言われ、晴太はコクッと頷いた。
幼馴染から恋人に変わってまだ半年。けれど、その言葉に晴太は救われた。
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