第1章 母との別れ

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「何? あたし達には黙ってたわけ!? 美子姉さん、酷い!!」 「そんな話は後! 美子姉さん、タクシーをお願い。美幸、支度するわよ!」 「……分かった」  涙目で黙り込んだ美幸を連れて部屋に行こうとした美野は、思い出した様に振り返って美子に確認を入れた。 「美子姉さんも、行くんでしょう?」 「ここに残っているわ」 「何で!?」  途端に非難がましい叫びを上げた美幸に、美子は淡々と答える。 「ここで色々、する事があるのよ」 「美子姉さん……」 「もういい! 美子姉さんなんてほっといて行こ!」  おろおろとする美野を連れて美幸は居間を出て行き、程なく到着したタクシーに二人を乗せて見送った美子は、予め深美と相談して決めていた内容に従って、各方面に連絡を入れて早速必要な手配を始めた。 「美恵と美実に連絡したし、叔母さん達に、大叔父さんと大叔母さん達と、お寺と葬儀社と新聞社……。会社はお父さんから話してくれている筈だし……、大丈夫。リストもあるし、お祖父さんとお祖母さんの葬儀の時、お母さんに付いて見ていたから、全体の流れは覚えているし……」  ぶつぶつと色々な事を書きつけてあるノートを捲りながら独り言を漏らしていた美子だったが、ここでリストに載っていなかった人物の事を、唐突に思い出した。 「……一応、メールだけはしておきましょうか」  そう呟いた美子は自分の携帯を引き寄せて、無味乾燥な文面を打ち込んで秀明に送信した。それから少しの間、何となく返信があるかと待っていた美子だったが、十五分経っても彼からは何の返信も無く、そうこうしているうちに連絡を受けた葬儀社の者が来訪した為に、その事をすっかり忘れ去ってしまった。  それから一時間を過ぎると、藤宮家では複数の人間が慌ただしく行き交っていた。 「テントの位置は、ここで良いな?」 「テーブルと椅子も出しておけ!」 「藤宮さん、ここからここまでの襖を外します」 「はい、奥の部屋に運んで纏めて下さい。代わりに出しておいた座布団をこちらに」 「藤宮さん、祭壇の位置はどうされますか?」 「壁にギリギリ付けなくても良いです。もう少しこちらに。その方が出入りし易いと思いますから」 「分かりました。それで遺影は、お預かりしていたこちらで宜しいですね?」 「はい、それでお願いします」
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