第11章 面倒くさい女

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「いえいえいえ、大変結構なんじゃないでしょうか!」 「…………」  しかしそのまま黙り込み、もう完全に何を考えているか分からなくなった美子の横顔を見て、淳は本格的に頭痛を覚えた。 (これ以上、迂闊に下手な事が言えん。秀明、お前頭を完全に元に戻してから、何とか自分で始末を付けろよ!?)  どうして俺が八つ当たりされて神経を擦り減らす羽目になるんだと、淳は内心で腹を立てつつも安全運転を心掛けて、無事藤宮邸に美子を送り届けてから去って行った。 「ただいま」 「お帰りなさい、美子姉さん」 「先に食べてたからね。江原さん、大丈夫だった?」 「もう治りかけていて、無駄に元気だったわ」 「そう、良かった」 「二人で心配してたの」  食堂に顔を見せた美子に、出かける前に秀明の話を聞いていた美野と美幸が、少し心配そうに尋ねてくる。それに微妙に引き攣った笑顔で応じていると、安堵したらしい美野が笑顔で立ち上がった。 「美子姉さん、座って。今姉さんの分を揃えるから」  しかし美子は一瞬考えてから、美野に断りを入れる。 「やっぱり夕飯は要らないから。もう寝るわ。おやすみなさい」 「え? おやすみなさいって……」 「美子姉さん?」  素っ気なく就寝の挨拶をして、夕飯を食べずに食堂を出て行った美子を、二人は唖然として見送った。そして自室に入った美子は、ドアを後ろ手で閉めると同時に、それに背中を預けながらずるずるとその場に座り込む。 「……何を考えてるのよ。あの馬鹿」  恨みがましく呟いた後、少しの間ボソボソと立て続けに文句を言った美子は、バッグから自分の携帯を取り出して秀明の携帯の番号とメルアドの着信拒否設定を、無言のまま済ませた。そしてバッグと同様にそれを床に放り出した彼女はまっすぐベッドに向かい、着替えもせずに頭から布団を被って、未だ混乱している自分の思考から逃れる様に、眠りに付いた。  その見舞い騒動から、約半月後。  自宅マンションに後輩を招き入れた秀明は、手元の書類や写真を睨み付けながら、唸るようにして確認を入れた。 「光……。ここに書いてある内容は、本当だな?」  それを聞いた篠田は、如何にも心外と言わんばかりに言い返す。 「当たり前じゃないですか! 俺がどれだけ駆けずり回って、かき集めたと思ってるんですか?」 「その様だな」
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