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その訴えに、秀明は眉間の皺を深くしながら書類を捲って確認作業を続けたが、そんな彼を篠田は上機嫌で褒め称えた。
「いやぁ、しかしこんな美味しいネタを嗅ぎ付けるなんて、さすがは白鳥先輩。先輩からのネタで、白鳥議員の時にはかなり儲けさせて貰いましたが、これもなかなかですよね?」
「そうだな。しかしお前の鼻の効き具合もなかなかだぞ、光。正直この短期間で、ここまで調べ上げられるとは予想していなかった」
「それが、偶々幾つかの幸運に恵まれまして。しかしこのネタ、倉田議員の事務所に持ち込んでも良いですが、これはどちらかと言うとマスコミの方ですかね? うん、交渉相手と話の持って行き方によっては、かなりの金になりそうだ」
ウキウキと今後の算段を立てる篠田の台詞を耳にした秀明は、ピクリと片眉を上げてから重々しく言い聞かせた。
「盛り上がっている所を悪いが、これを表に出すつもりは無い。調べて貰って悪いが、そのつもりで居てくれ」
その宣言に、篠田は忽ち驚愕の顔付きになる。
「はぁ? 何の冗談ですか。倉田議員を脅すネタが何か無いか、探ってたんじゃ無いんですか!?」
「それはちょっと違うんだ。誤解させていたなら悪いが、とにかくこれはお蔵入りだ」
「そんな殺生な……」
未練がましく訴えた篠田だったが、秀明が心の底から申し訳無さそうな顔をしながらも、この件に関しては一歩も引かない気迫を醸し出していた為、これまでの経験上引き際を心得ていた彼は、あっさり両手を挙げて降参した。
「そう言えば、倉田議員は彼女の縁戚でしたね。了解しました。それは先輩の好きにして下さい。データのコピーは廃棄しておきます。今回は、先輩に一つ貸しですね」
「悪いな」
軽く頭を下げた秀明を見て、無念そうな顔をしていた篠田は、小さく溜め息を吐いてから幾分楽しそうに笑った。
「そういうレアな先輩の困り顔を見られただけで、良しとしますよ。それに先輩に貸しを作るなんて、滅多にできる事じゃありませんからね。ただし、かかった経費は請求しますし、貸した借りは後から倍にして返して下さいよ?」
「ああ、勿論だ。経費は色を付けて払うし、借りは十倍にして返してやる」
「期待してます」
「取り敢えず前払いだ。未開封のマッカランの五十年物が有るんだが、持って行くか?」
「勿論、頂いていきます!!」
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