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「私としては、後から思い返したら傍若無人過ぎて赤面物だから、皆には早く忘れて貰いたいわ」
「母に限っては無理だと思う」
「……そうみたいね」
真顔で断言されてしまった美子は、がっくりと肩を落とした。するとマッシュルームのポタージュを持って来たウエイターが下がったのを見計らって、俊典がまた控え目に声をかけてくる。
「それで、母から話を聞いていると思うけど……」
さっそくスプーンを取り上げてスープ皿に入れた美子は、手の動きを止めて彼に視線を向けた。
「私との結婚の事よね? いきなりの話で、正直驚いたわ」
そう言ってスープを口に運んだ美子に、俊典は同意する様に頷いた。
「同感。俺だってまだ秘書としての仕事を覚えてこなすのに精一杯だし、二年後に控えている区議会議員選挙に立候補しろって言われて、これから地元の有力者との関係を綿密にしていかなきゃいけない時期だって言うのに、そんな事落ち着いて考えられるかよ」
最後は彼らしくなく、些か乱暴に文句を言ったのを聞いて、美子は一人納得した。
「なるほどね……、それで分かったわ」
「え? 何が?」
当惑した俊典に、美子は更にスープを一口飲んでから、自分の推測を口にした。
「俊典君が二年後に立候補するからこそ、ここで私との結婚話が持ち上がったのよ」
「は? どうして?」
まだ良く分かっていない従弟に、彼女は噛んで含める様に説明を始めた。
「だって、立候補者の母親が横に立って『息子を宜しくお願いします』って頭を下げてたら、とんだ過保護と思われるか、露骨な世襲議員だと思われそうだもの。妻が夫の為に頭を下げるなら、内助の功以外の何物でも無いでしょうけど」
「…………」
そこまで言われて分からない俊典では無く、無言で美子を凝視した。その視線に構わず、美子は話を続ける。
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