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「加えて、これまでの叔父さんの選挙の時、体調を崩すまでは母が、その後は私がいつも選挙事務所のお手伝いをしていたから後援会の主だった方とは顔見知りだし、政治活動の内情なんかもある程度は分かっているし」
「確かにそうだね」
「だから叔母さんにしてみれば、これから手取り足取り政治家の嫁教育をする必要が無い、後援会から反対される可能性も無い、ある程度気心のしれた私を嫁に迎えて、来るべく選挙に備えて今のうちに万全の布陣を作ろうって考えたわけよ。気持ちは分かるけど……」
「…………」
そう言って溜め息を吐いてから、美子はこれまで通りスープを飲み始めたが、向かい側の俊典の手と口が全く動いてないのを見て、怪訝な顔で尋ねた。
「俊典君、どうかしたの?」
その声で我に返ったらしい俊典は、何回か瞬きしてから苦笑いの表情になった。
「やっぱり美子さんはさすがだなって思って。俺は正直、今回の話と選挙が結び付いているとは思って無かったから」
そう言って食事を再開した俊典に、美子は宥める様に言い聞かせた。
「本来結婚は自分の意志で決めるものだし、叔父さんも政略結婚とか画策するタイプじゃないし、そういう風に考えられなくても無理ないわよ。叔母さんだって全くの打算だけで話を持って来たわけじゃないんだし、気に入らないからって親子で揉めないでね?」
「いや、美子さんは何事もそつがなくて任せておけば安心って感じがするし、どんな人にも分け隔て無く優しいし、母の見る目に感心する事はあっても、文句を付けるつもりは無いよ?」
「……そう?」
「ああ」
(何だか困った流れになりそうだわ。どうしたものかしら?)
如何にも感心した様に、俊典が好感度の高い笑顔で述べてくる為、美子は笑顔を返しながら内心で頭を抱えた。そしてスープを食べ終え、黒ムツのポアレにアオリイカの煮込みが添えられた皿が運ばれてきたところで、何やら急に俯いて難しい顔をしていた俊典が顔を上げ、重々しく言い出してくる。
「それで……、ちょっと参考までに、美子さんの意見を聞いてみたい事があるんだけど……」
「何かしら?」
相手の様子を見て美子が不思議そうに尋ね返すと、俊典が尚も小声で念を押してくる。
「くれぐれも、ここだけの話にして貰いたいんだけど……」
如何にも心配そうに言われて、美子は流石に若干腹を立てた。
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