第12章 打ち明け話

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「それなりに口は固い方だと自負しているけど、そんなに心配なら話さないで貰える?」 「いや、ごめん! 嫌味とかじゃないから!」 「それは分かっているわよ?」 (何なの? 鬱陶しいわね)  美子は何とか微笑みながらも内心で苛付いていると、俊典は更に声を潜めて、周囲を憚る様にして話し出した。 「実は……、父には二十年来懇意にしている女性がいるんだけど……」 「え? 懇意って……」 (後援会や常任委員会で、親しくお付き合いしている女性の方は何人も……。じゃなくて、この場合、意味する所はひょっとして!!)  何気なく切り分けて口に運んだ魚の身を噛みしめながら頭の中で考えた美子は、その意味する所を悟った瞬間、勢い良く口の中の物を飲み込んで声を張り上げてしまった。 「えぇぇぇっ!? まさかあの叔父さんに限って!!」 「美子さん! 声が大きいっ!!」 「ご、ごめんなさい」  血相を変えた俊典が中腰になって制止してきた為、美子は慌てて謝罪した。そして声を潜めて相手に抗議する。 「俊典君、こんな所で笑えない冗談は止めて。お願いだから」  それは本心からの懇願だったのだが、俊典は真顔で告げた。 「俺も初めて知った時は、冗談かと思った」  それを聞いた美子は、フォークとナイフを置いて本気で愚痴る。 「……お願い、勘弁して。この事、叔母さんは知ってるの?」 「全く。だからくれぐれも」 「言えるわけ無いわよ」 「ごめん」  申し訳なさそうに謝られたものの、美子は聞かされた内容に頭痛を覚えた。 (こんな事聞かせないで……。今度叔父さん達の前に出た時、平常心を保てるかしら? 第一、今までの話の流れで、どうしてこの話題が出るの? 全然意味が分からないわ)  短時間のうちに目まぐるしく考えを巡らせた美子だったが、全く相手の意図が分からなかった為、自棄になって再び切り身を口に運んだ。そして食べた事で幾らか冷静さを取り戻せた為、なるべく慎重に尋ねてみる。  「それで? どうしてそんな事を私に聞かせたの?」 「その……、美子さんが、それについてどう思うか聞きたくて」 「どうして?」 「まあ、ちょっと色々あって……。そう言うのって言語道断だと思うかな?」  顔色を窺う様にしてそんな事を言われた為、美子は渋面になりそうなのを堪えつつ慎重に述べてみた。
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