第2章 煩わしい出来事

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 翌日、終業時刻と共に社屋ビルの一室で、持参していた喪服と黒いネクタイに着替えた秀明は、着ていた服とブリーフケースを持ってビルの外に出た。それから五分と経たずに目の前にセダンがやって来て、静かに停車して彼を拾う。  運転していたのは早めに仕事を切り上げ、自宅で喪服に着替えて来た淳で、互いに余計な事は言わずに一路藤宮邸へと向かった。 「さてと、着いたぞ。ここから少し歩くからな」  藤宮邸に程近いコインパーキングに愛車を入れた淳は、助手席の秀明に声をかけた。それに秀明が素直に頷く。 「構わない。どうせ近くには停められないだろうしな。お前が車を出してくれて助かった」 「どうせ仕事帰りに寄ると思ったからな。服と鞄も置いていけ」 「そうさせて貰う」  そして男二人で並んで歩き出しながら、淳がしみじみとした口調で言い出した。 「しかし……、確かに病状が悪化していると美実から聞いてはいたが、急な事で驚いた。昨夜電話で大泣きして知らせてきて、宥めるのに暫くかかったぞ。お前も美子さんから電話を貰った口か?」
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