第2章 煩わしい出来事

5/7

243人が本棚に入れています
本棚に追加
/142ページ
 恐る恐るお伺いを立ててみた淳だったが、その提案を秀明は腹立たしげに一蹴した。 「放っておけ。そんな下らん事を教えて、社長に不愉快な思いをさせるな。大体そんな輩は、泣いていたら泣いていたで『あんなに泣いてみっともない』とかほざく阿呆だ。まともに相手をするのは、時間と労力の無駄だ」 「確かにそうだな」  そこで秀明が再び歩き出した為、淳も(意外にこいつが冷静で助かった)と胸を撫で下ろしながら並んで歩き出したが、すぐに秀明が確認を入れてきた。 「その女、座っていた位置や特徴は覚えているな?」 「ああ。それが?」  何気なく問い返した淳だったが、それに冷え切った声が返ってくる。 「美実ちゃんに聞いて、それが誰なのかきちんと特定しておけ。家族全員の名前と住所と電話番号と勤務先は必須だ」 「……了解」  無表情で告げられた事で、却って親友の怒りが最上級であると分かってしまった淳は、(これは本気で怒ってるな……。もう俺は知らん)と、自らがの発言がきっかけだったにもかからわず、事態の収拾を完全に諦めた。  その後の藤宮邸では無事に通夜ぶるまいも終了し、深美とごく親しい者達だけが残って、祭壇の前で語り合っていた。そんな中頃合いを見て居間に籠っていた美子に、ドアを開けて美恵が報告してくる。 「奥の和室に布団を敷いて、叔母さん達に休んでもらう様に声をかけたわ。仮眠程度になるでしょうけど。交代でお風呂に入って貰う様にも言ったし」 「ありがとう、助かったわ」 「それから、美野と美幸の事は、美実に頼んであるから」 「そうね……、暫く付いてて貰って」  そこで物憂げに溜め息を吐いた姉の手元を見て、美恵が眉を顰めながら尋ねる。 「それで、姉さんは何をやってるの?」 「請求書と領収書と弔電と香典の整理。これが済んだら明日の朝ご飯の準備をしてから、叔母さん達にお茶でも持って行くわ」  かなりの分量で積み重なっているそれらを見やった美恵は、溜め息を吐いて姉に申し出ながら台所に移動する。 「炊飯器のセットとお茶出し位、私がやっておくから」 「あ、今日は泊まっている人が何人もいるから」 「その分はちゃんと多く炊くわよ!」
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加