第1章 母との別れ

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 日中、病院で担当医と協議した内容について、美子は頭の中で再度考えを巡らせてから、姉妹揃っての夕飯の席で口を開いた。 「皆に、言っておかなければいけない事があるんだけど……」 「何? 姉さん」  他の者は急に重々しく言い出した美子に何事かと訝しむ顔を向け、代表するように美恵が問い返した。それを受けて、美子が慎重に本題に入る。 「お母さんのお見舞いについてなんだけど……、今までは正午から六時までの面会時間に各自都合の良い時間に行っていたけど、今度からは二時から四時の間だけにして頂戴」 「どうして? そうなると下校してから、病院に寄る事ができなくなるんだけど……」  困った様に美野が申し出た横で、美幸も無言で頷いたが、美子は若干躊躇しながらも、用意しておいた台詞を口にした。 「この数日で急に寒くなってきたから、お母さんの体調があまり良く無くてね。面会謝絶まではしないにしても、あまり疲れない様に面会する人間を制限しましょうかって、主治医の先生と話し合ったの」 「お母さん、そんなに具合が悪いの?」  途端に心配そうに尋ねてきた美野に、美子はできるだけ優しく言い聞かせた。 「それほど酷くは無いけど、念の為大事を取るって事よ。だからお見舞いに行くのは、学校がお休みの時にね」 「はい……」  そこで元来素直な美野は残念そうにしながらも一応頷いたが、横から美幸が更なる問いを発した。 「美子姉さん。それじゃあクリスマスとか年末年始に、お母さん一時帰宅できないの?」  真っ向からそう尋ねられた美子は、ここでこれ以上誤魔化すのは諦めた。 「そう、ね……。そうなるかもね」 「……そんなの、やだ」  俯いてボソッと文句を言った美幸を、美野が渋面になりながら窘める。 「美幸、仕方ないでしょう?」 「御馳走様でした」 「ちょっと美幸! まだ食べ終わってないじゃない。待ちなさい!」  そして食事を中途半端にして走り去った美幸を、美野も叱りつけながら慌ただしく追いかけて行った。暫くしても戻って来ない二人の様子を部屋まで見に行った美子だったが、結局二人とももう食事は良いと言う話になり、溜め息を吐いて食堂に戻った。 「さっきのは、どういう事?」
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