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「それはそうでしょうよ。婿養子になった位ですから、しっかり会社を守って貰わないとね。そうじゃないと、後が困るわ」
「後と仰いますと?」
(本当に以前から思っていたし、お母さんも良い顔をしていなかったけど、お父さんに対して馬鹿にした態度を隠そうともしないわね、この人。何様のつもりよ? お父さんは……、いない? 会社から何か仕事に関しての電話でも来て、抜けたのかしら?)
全く悪びれずに会話を続けている為、珠子の言っている内容を耳にした周囲の何人かは、この時点で無言で彼女に咎める様な視線を送り始めた。美子もさり気なく父親の姿を探したが、取り敢えず席を外しており、不愉快な物言いを耳に入れていなかった事が分かって安堵したが、珠子の傲岸不遜な物言いは更に続いた。
「あら、取り敢えずあの人に旭日食品の社長職は任せるけど、あくまで次に繋ぐまでの処置よ。やっぱり藤宮家の血を継いでいる人間が、その座に就かなくてはね」
(何訳知り顔で言ってるのよ。勘違いも甚だしいわ)
完全に呆れかえった美子は、素っ気なく話を終わらせる事にした。
「勿論社内には、藤宮家と関わりの有る方が何人もいらっしゃいますので、会社の将来に不安はありませんから」
「美子ちゃんはそんな風に控えめ過ぎるから、門外漢に良い様に付け込まれそうで、おばさん心配なのよね。だから私の息子と結婚しない?」
「……はい?」
(何、この人。今、何て言ったの?)
話は終わったとばかりに腰を上げかけた美子だったが、さらっと言われた内容を聞いて、己の耳を疑った。しかし珠子は全く悪びれずに、笑顔を振り撒きながら言ってのける。
「うちの息子二人、どちらもまだ決まった相手はいないのよ。それなりに見た目も良いし、美子ちゃんとなかなかお似合いよ? 藤宮家の事も良く分かっているし、何でもそつなくこなせるから、結婚したら美子ちゃんはつまらない事に煩わされる心配は要らないから」
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