第3章 不心得者への制裁

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「あ、あのね美子ちゃん、それは」  尚も何か言いかけた珠子の台詞を尚も遮り、美子は些かわざとらしく思い返す素振りをしながら、問題の二人に目を向けた。 「ああ、でも……。確かお二人とも以前旭日食品の採用試験を受けて、不採用になったのでしたか? 今更採用になるとは思えませんが」  美子がそう口にした途端、室内のあちこちで失笑が漏れ、はっきり言われた二人は途端に愛想笑いを消して睨んできた。そして珠子は怒りを露わにして、美子を怒鳴りつける。 「なんですって? あの時息子達が採用されなかったのは、あの婿養子のせいよ!! 社内で自分の影響力が少なくなるのを心配して、裏で手を回して採用させないようにしたんじゃない!」 「よせ、何を言い出すんだ!!」  完全に難癖を付けているとしか思えないその訴えにも、美子は憐れみさえ感じさせる眼差しで、全く動じずに言い返した。 「自分に都合の良い様に妄想するのは勝手ですが、能力の有る無し以前に、自分の仕事に責任や誇りを持っている方は、軽々しく『職場をいつでも辞めても良い』とか口にされないですし、普段全く行き来のない人間の葬儀に出向く為に有休を取得した挙げ句、就職斡旋を依頼するような真似はしないと思います」 「ふざけるんじゃないわよ!! こっちは会社や家の跡取りにもならない、生意気な娘ばかり五人も産んだ挙句に、婿養子の言いなりになって会社を好き放題にさせた上、早死にする様な間抜け女の尻拭いをしてやろうと、親切心で言ってるのよ!?」 「珠子、止めろ!!」  珠子が暴言を吐いた途端、静まり返っていた室内の空気が完全に凍り付いた。と同時に周囲から一斉に非難する視線が突き刺さったのを感じた橋田が狼狽しながら妻を窘めたが、彼が謝罪の言葉を口にする前に、美子が淡々とした口調で言い出した。 「そうですか。母が間抜け女ですか」 「あ、いや、美子君。今のはだな」 「それでは、誰でも入れるような三流大学に何とか押し込んだものの、元々大した能力も無い為に就活に悉く失敗し、唯一コネを利かせられる父親の会社に就職させれば、社内で社長令息の肩書を使って経費を誤魔化して自分の懐に入れたり、社内の女性に二股三股かけていたのがばれて到底庇い切れず、会社に居づらくなる様な息子しか産めなかったあなたは、恥知らずの殻潰しとでもお呼びすれば宜しいですか?」 「なっ!!」 「なんでそれを!?」
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