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「お前! こそこそ調べてやがったのかよ!?」
そう言って酷薄な笑みを向けた美子に、珠子は怒りで益々顔を赤くし、正輝と剛史は狼狽えて怒鳴り返した。しかし美子は白けた様な表情で言い返す。
「あら、図星でしたか。あなた方の様などうでも良い人達のどうでも良い事を調べる為に、時間やお金を使うのは無駄と言う物です。ただ普段付き合いの無い家の葬式に、平日仕事を休んで来るなんてよほど再就職先に困っていらっしゃるのかと。自身の父親の会社にも居づらくなるなんて、余程のろくでもない事情かと思っただけですわ。勿論、今私が口にした内容だけでも無いのでしょう?」
「……っ!!」
「あの、美子君。これは」
もはやぐうの音も出ない連中と、狼狽えるばかりの小者を冷たく見やった美子は、感情を感じさせない声で言い放った。
「即刻、お引き取り下さい。これは藤宮家の総意です」
「は?」
「金輪際、我が家はあなた方を親族として遇するつもりはありませんし、訪ねてきても客として遇しないと、申しております」
「何を言っているの?」
すこぶる冷静、かつ冷め切った声での美子の宣言に、咄嗟に橋田家の人間は反応できなかったが、美子はわざとらしく溜め息を吐き、相手を真正面から見据えたまま、背後の妹達に呼びかけた。
「どうやらごく初歩的な日本語も理解できない、残念極まりない方々の様ですね……。美恵」
「はい」
「美実」
「当然よね」
「美野」
「分かりました」
「美幸」
「おっまかせ~!」
「あ、ちょっと美幸! お膳を飛び越えるなんて、何事よっ!!」
美子の呼びかけに答えたのも、腰を上げたのも年の順だったが、一番先に橋田家の席まで到達したのは、迷わず最短距離を選択した美幸だった。そして問答無用で剛史のお膳を持ち上げ、さっさと廊下に向かって歩き出す。
「よっと!」
「あ、おい! 何をする!」
慌てて引き止めようとした剛史の横で、美野が正輝のお膳を持ち上げながら、淡々と説明を加える。
「美子姉さんが今後一切、あなた達を客として遇しないと言いましたから。あ、ちょっと美幸! 足で襖を開けるのは止めなさい!!」
「は? ちょっと待て!」
驚いた正輝を丸無視して、美野が美幸を叱責しつつお膳を抱えて後を追うと、美恵と美実も当然の如く夫婦の膳に手をかける。
「親族でも客でもない人間に、饗する膳はありません」
「そういう事。……あら? 往生際が悪いわね」
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