第3章 不心得者への制裁

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「あなた達! こんな事をして良いと思ってるの!?」  橋田は呆然としていたが、珠子は憤怒の形相で美実に渡すかと自身の膳に手をかけて抵抗した。しかしその上から、料理の上に徳利の中の酒が降りかかる。 「お酒まみれのお料理が、そんなにお好みですか。そんな恥ずかしい酒乱の方は、藤宮家の親族にこれまで一人たりとも存在しておりませんが」  横から手を伸ばした美子が、徳利の中身を全て珠子の膳の中に流し終えてから侮蔑的な視線を投げかけると、珠子は顔を赤黒く染めて勢い良く立ち上がった。 「……っ!! 覚えてらっしゃい!!」  そして捨て台詞を吐いて足音荒く一家が出て行くのと入れ違いに戻って来た妹達に、美子が言葉少なに言いつける。 「美野、美幸。塩」 「はい!」 「行って来ます!」  嬉々として再び台所に戻って行く二人と、何事も無かった様に二つの膳を運び去る美恵と美実を見送ってから、美子はこの間唖然として事の成り行きを見守っていた参列者に向き直って、頭を下げて謝罪した。 「お騒がせ致しました。できれば先程の醜態はお気になさらず、ご歓談下さい」  そう口にしてから美子は静かに上座に進み、住職達に向かって改めて詫びを入れた。 「ご住職、大変見苦しい物をお見せ致しまして、誠に面目ございません」  そう言って深々と頭を下げた美子に、長年の付き合いのある老僧侶は鷹揚に頷いた。 「いやいや、法要の席とは故人を悼み、安らかに逝ける様に残された者が想いを馳せるもの。あの様な者が居たならば、成仏の妨げ以外の何物でも無い。宜しい様に」  そう言って合掌した住職の横で、副住職も苦笑いで頷く。 「正直、私共の方から説教しようかと思っていた位ですから、お気になさらず。しかしあの様な方が拙僧の様な若輩者に意見されたとて、素直に心根を改めるとは思えませんので、年長者に丸投げするつもりでおりましたが」 「何だと? 全く近頃の若い者は、年長者を敬うどころか、隙あらばこき使う気満々でけしからん」 「いえいえ、ご住職の徳の深さを身にしみて存じ上げている故の物言いですので、ご容赦下さい」  そんな気安いやり取りで漸くその場の雰囲気が解れ、室内がざわめきを取り戻した為、美子は改めて住職達に感謝して軽く頭を下げてから、父方の親族達が固まっている席に向かった。
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