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「和典叔父さん。会期末のお忙しい中わざわざ足を運んで下さったのに、見苦しい所をお見せしまして、本当に申し訳ありませんでした」
「気にするな美子ちゃん。住職の言うとおりあまりの暴言ぶりに、私も怒鳴りつけるつもりでいたからな。唖然としているうちに、先を越されてしまったが」
「本当に、美子ちゃんがピシャリと言ってくれて、胸がスッとしたわ。ところであの方は、どんな方なの? 藤宮家と関係がある方よね?」
神妙に頭を下げた姪を夫婦揃って宥めてから、義理の叔母である照江が眉を顰めて小声で尋ねてきた為、美子は疲れた様にそれに答えた。
「母の父と、あの人の母親が兄妹で、母の従姉妹の一人に当たります。ご主人が旭日食品の関連会社の社長をしておりますが、普段は殆ど行き来していませんのに、急に一家揃って出向いて来たので、朝からおかしいとは思っていたのですが……」
その苦々しげな顔付きを見て、自身も様々な冠婚葬祭を取り仕切らなければ立場である照江は、すぐにピンときた。
「ひょっとして……、朝に急いでお膳の数を増やしたとか?」
「はい。お分かりになりましたか」
「なるほど、良く分かったわ。あれだけの暴言を吐いても、向こうの親戚が傍観しているわけが」
些かわざとらしく、声量を通常レベルに戻しながら発言した照江に、美子は少し慌てた。
「声が大きいぞ、照江」
「叔母さん。決して傍観していたわけではありませんから」
慌てて和典も窘めたが、昌典の姉で美子の実の伯母に当たる優子と恵子も、同情する顔付きになって横から声をかけてくる。
「でも、やっぱり色々大変そうね」
「なまじ血縁があると言いにくい事があるでしょうし、何か困った事があったら、いつでもこちらの方に声をかけてね?」
「私も相談に乗るわ。愚痴を零すだけでも、気が楽になるでしょうし」
「ありがとうございます。優子伯母さん、恵子伯母さん」
そこで少し父方の親戚と和やかに話をしていると、漸く用事を済ませたらしい昌典が部屋に戻って来たが、膳が四つとそこに居る筈の人間の姿が見えなくなっている事にすぐ気が付き、周囲の者に訝しげな声をかけた。
「……何かありましたか?」
しかし流石に口にするのは憚られる内容であった為、皆が口を噤む中、自分で説明しようと美子が声を上げたが、それを大叔父に当たる人の声が遮る。
「お父さん、それが」
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