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「ええと、これが美幸の分で、これが美恵の分ね。それからこっちが美野宛てで、これが美実……」
そして自分の手の中に「昌典さんへ」と記した封筒のみが残った所で、美子が黙り込んだ。
「美子姉さん?」
「どうかしたの?」
「……後はお父さん宛てね。ちゃんと渡さないと」
訝しんだ妹達に声をかけられて美子がぼそりと口にしたが、その様子を見た美恵が、信じられないような顔付きになりながら確認を入れる。
「姉さん? まさかとは思うけど、姉さんの分は先に貰ってあるとか、別にしてあるわけじゃないの?」
「…………」
そう問われても無言のままの美子に、妹達は揃って愕然とした表情になり、次いで焦った様に口々に言い出した。
「え、えっと……、そうよ! さっき『幾つかに分けて保管してた』って言ってたじゃない?」
「そ、そうよね。うちの家系って名前に『美』の文字が付く人ばかりだし。叔母さん達宛ての封書の中に、混ざっちゃったとか!」
「きっとそうだよ! もう、やだお母さんったら! 最後の最後で、そんな事で外さなくても! お茶目だよねっ!」
そして「あははは」と引き攣った顔で、些かわざとらしく笑い合う妹達に向かって、美子は淡々と告げた。
「他は全部、表に名前と住所がきちんと記載されていた物だったから、昨日郵便局の窓口で郵送手続きを済ませたわ」
「…………」
静かに断言すると同時に、ピシッと固まった妹達から視線を逸らした美子は、残った一通を手にしたまま立ち上がった。
「じゃあ、確かに渡したわよ。これをお父さんの机に置いてくるから」
「あのっ! 美子姉さん!?」
慌てた感じで美野が声をかけたが、それを無視して美子は居間を出て行った。
(別に……、良いけどね。もう、子供じゃないんだし。お母さんからしたら、改めて言う事も無かったんでしょうから)
自分自身にそう言い聞かせながら、じんわりと両目に浮かんできた涙を拭った美子は昌典の書斎へと向かったが、居間に残された妹達は、揃って困惑顔を見合わせた。
「どういう事?」
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