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「どうもこうも。お母さんが姉さんにだけ、手紙を用意してなかったって事でしょう?」
「でも、どうして? 美子姉さんには直接色々話してるから、要らないって事? でも、それにしても……」
「お、お母さんの馬鹿ぁ~。美子姉さんが貰って無いのに、これ、読めないよぅ~」
つい先程貰った封筒を両手で握り締めながら、ぐすぐすと泣き出してしまった美幸だったが、他の者も同様の気持ちだった為誰もそれを咎めず、顔を顰めて押し黙った。
それから少しして帰宅した昌典に、美子は食堂で夕飯を出しながら、預かっていた手紙に付いて述べた。
「そう言えばお父さん。お母さんから預かっていた、お父さん宛ての手紙。机の上に置いてあるから、後から見てね」
その手紙について、予め話だけは聞いていた昌典は、ご飯茶碗と箸を手にしながら応じた。
「そうか? 分かった。もうこちらは良いぞ?」
「それなら流しを片付けているから。食べ終わった頃に、お茶を持ってくるわ」
そう言って美子が食堂から台所に移動し、昌典が一人で夕飯を食べていると、食堂に美恵が入って来た。
「お父さん。ちょっと良い?」
「美恵? どうかしたのか?」
「姉さんは来ないわよね?」
「ああ。流しを片付けていると言っていたが?」
台所に繋がるドアを気にしながら確認を入れてきた美恵に、昌典が不思議そうに問い返すと、美恵は彼に歩み寄りながら言いにくそうに口を開いた。
「お母さんからの手紙の事なんだけど……」
「ああ、聞いている。俺宛の物を机に置いたと、美子が言っていた」
「姉さんの分だけ無かった事は、聞いて無いわよね?」
慎重に美恵がそんな事を尋ねてきた為、昌典は一瞬唖然としてから、盛大に顔を顰める。
「……何の冗談だ?」
それに美恵が、溜め息を吐いて応じる。
「冗談じゃ無いから困ってるんじゃない。だから今回お父さんには、ちょっとお目こぼしして貰おうかと思ってるんだけど」
「は? 何を言ってるんだ?」
意味が分からずに困惑する父親に向かって、美恵はその耳元である事を囁いた。そして背後のドアを気にしながら話し終えたが、それによって昌典の顔がこれ以上は無い位、苦々しい物になる。
「……美恵」
「そんな怖い顔で睨まないでよ」
如何にも「私だって不本意よ」と言う表情の娘に、昌典は忌々しげに告げた。
「今回だけだぞ?」
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