第4章 深美からの手紙

5/9

243人が本棚に入れています
本棚に追加
/142ページ
「向こうにも、くれぐれもお父さんの逆鱗に触れる事をしない様に言っておくわ。問答無用で飛ばされそうだし」 「あの男なら、飛ばされた先に嬉々として美子を引きずって行きそうだがな」 「それは否定できないわね」  益々気分を害した様に言葉を継いだ昌典に、美恵はこれ以上刺激しては拙いと、慎重に引き下がった。 「とにかく、そういう事だから宜しく」  そして一人取り残された食堂で、昌典は亡き妻に対する愚痴を零す。 「全く深美の奴、一体何を考えていたんだ?」  そして一気に味気なくなった夕飯を食べつつ、その合間に昌典は重い溜め息を吐いた。  同じ頃、外で夕食を済ませて自宅マンションに帰り着いた秀明は、エントランスの集合ポストの中を確認して、手の動きを止めた。 「深美さん?」  手にした封筒を裏返した瞬間に目に入って来た名前に、秀明は少しの間だけ固まってから、軽く首を振って苦笑いする。 「そうか……。一瞬、幽霊からかと思って驚いた。彼女あたりが預かっていて、落ち着いてから投函したんだな」  すぐに真相を悟った秀明が、一緒に入っていたダイレクトメールやチラシの類と纏めて封筒を掴み、自宅に向かって何事も無かったかの様に歩き始めた。 「しかし幽霊からって、何だそれは。俺らしくも無い。……本当に深美さんは、最後まで意外性の塊だったな」  そんな自嘲気味の台詞を吐きながら自宅に帰り着いた秀明は、コートを着たままソファーに座り、早速封筒に手を伸ばす。 「さて、それでは何が書いてあるのか、読ませて貰おうか」  そして目の前のコーヒーテーブルに設置してある引き出しから鋏を取り出し、封筒の上部を水平に切って開封した。そして中を覗き込んで、怪訝な顔になる。 「うん? 私信が入っているだけにしては、やけに封筒が大きいと思ったら、他にも何か入ってるのか?」  そう呟きながら、取り敢えず秀明は折り畳まれた便箋を取り出し、それに目を通し始めた。そして全て読み終えた彼は、深い溜め息を吐いて項垂れる。 「深美さん、なんて無茶ぶりをしてくれるんですか……。俺にこんな事を言いつけられる人間は、あなた位ですよ。『それ位はしてね』って事だとは思いますし、気持ちも分かりますが……」
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

243人が本棚に入れています
本棚に追加