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思わず愚痴をこぼしてから、秀明は再び送りつけられた封筒を覗き込み、それよりは一回り小さい封筒を取り出した。その白一色で表に「美子へ」としか書いていない封筒を目の高さまで持ち上げて、自問自答を始めた。
「さて……、あっさり渡すのは簡単だが、できる限り深美さんの希望通りにしたいしな。どう話を持っていくか……。人目も考えないといけないし」
そこで携帯の着信音が鳴り響いた為、秀明はそれを手にしたが、発信者名を見て怪訝な顔になった。しかし(こんな時間に珍しいな)と思いつつ応答する。
「やあ、美幸ちゃん、こんばんは」
「えっと……、遅くにすみません、江原さん」
かなり恐縮気味に挨拶してきた美幸に、秀明は笑いを堪える様に言い聞かせた。
「確かにちょっと中学生には遅い時間だが、大切な用事があったから電話してきたんだろう? 構わないから、遠慮しないで言ってごらん?」
「はい……、その、ですね……」
「うん、何かな?」
何故かそのまま美幸は黙り込んでしまったが、秀明は催促する事無く、そのまま美幸の話を待った。すると少ししてから、美幸が思い切った様に話し出す。
「あの……、お母さんのお葬式の前後もそうなんですけど、あれからずっと美子姉さん、人前で泣いてないんです。勿論、私達の前でも」
「……そうか」
彼女の性格ならそうだろうなと納得しながら、秀明はそのまま美幸の話に耳を傾けた。
「こっそり一人で泣いてるのかとも思ったんですけど、注意して見ていても、そんな様子は無いし……」
「妹としては心配かな?」
「それもそうだけど……」
そこで段々小声になって黙り込んだと思ったら、美幸が涙声で訴えてきた。
「あのね? 美子姉さんはこの間全然泣いて無いけど、それは美子姉さんが薄情だからとか、感情の起伏に乏しいとか、可愛気が無いからとかじゃ無いから。そこの所は、江原さんに誤解して欲しくは無いんだけど」
「ああ、それは分かっているから、大丈夫だよ? そんなつまらない事を、美幸ちゃんの耳に入れた馬鹿がいたのかい?」
口調は穏やかながらも(もしそうなら放置できんな)と物騒な考えを頭の中で巡らせていた秀明に、美幸が否定の言葉を返してきた。
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