第4章 深美からの手紙

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「ううん。さすがにはっきり言ってくる様な人はいなかったけど……。だけど私達の中で、美子姉さんが一番先に生まれて、一番長くお母さんと一緒に過ごしてるんだから、美子姉さんが一番悲しい筈だもの!」 「ああ、そうだね」  きっぱりと断言した美幸に、秀明は無意識に目元を緩めたが、それから美幸は急に勢いを無くした暗い声で、話を続けた。 「それなのに、私……、そういう事すっかり忘れて、お母さんが死んだ時とか、その後とか、美子姉さんに八つ当たりしちゃって、色々きつい事言っちゃったしっ……。それにっ……、わ、私がずっと大泣きしちゃってたから、よ、美子姉さん、泣けなくなっちゃったのっ……」  そこで「ふえぇぇっ……」とむせび泣きし始めてしまった美幸を、秀明は慌てて宥めた。 「美幸ちゃん、ちょっと落ち着こうか。それは美幸ちゃんのせいじゃ無いと思うよ?」 「そ、それにっ……、お母さんも酷いようぅ~。皆に書いた手紙、美子姉さんの分だけっ、なくってっ! お、お母さんの馬鹿ぁぁぁ――――っ!」  そんな事を絶叫してから「うわあぁぁ――ん!」と本格的に泣き出してしまった美幸に、秀明は本気で困惑した。 「あの、美幸ちゃん。頼むから、ちょっと落ち着いて俺の話を聞いて欲しいんだが。その手紙の事なんだが、実は」 「そんな、大変困った状況なので」 「え?」 「ちょっと美野姉さん!」  そこでいきなり通話に違う人物の声が割り込んできた為、秀明は当惑したが、電話の向こうで何が起こったのか、落ち着き払った美野の声が聞こえてきた。 「ここは一つ、美子姉さんに求婚している江原さんに骨を折って貰えればなと、大変身勝手で、こちらに都合の良い事を考えているんです」 「江原さんと、何勝手に話してるのよ! それに私の携帯、返して!」 「美野ちゃん?」  美幸の怒声で、どうやら美野が妹から携帯を奪い取って話しているのが秀明には分かったが、電話の向こうで美野はすこぶる冷静に妹に言い返した。 「何言ってるのよ、美幸。私は江原さんと話なんかしていないわ。偶々廊下を歩きながら独り言を言っていたら、それが偶々江原さんと話していた美幸の携帯越しに、相手に伝わっただけじゃない」 「ここ私の部屋だし! 勝手に部屋に入って来た挙げ句に、人の携帯を取り上げて何世迷い言を言ってるわけ!?」
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