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「だから美幸と江原さんの会話によって何らかの問題が生じたとしても、私には全く責任は無いわ。不可抗力よ」
「ちょっと! 美子姉さんに怒られたら、そう言って無関係を決め込む気!? それでも姉なの!?」
姉妹のやり取りを聞いて事情が分かった秀明は、片手で口元を押さえて必死に笑いを堪えたが、ここで新たな声が会話に割り込んだ。
「美野~。こっちにパス!」
「はい」
「あ、ちょっと! 美実姉さんまで、何やってるのよ!」
どうやら携帯争奪戦に美実まで乱入したらしいと思っていると、予想通り今度は皮肉げな彼女の声が聞こえてくる。
「と言うわけで、美子姉さんを何とかして。出来ないって言うなら、甲斐性無しのレッテルを貼るわよ? あ、言っておくけど、これもあくまで独り言だから。はい、美野、パス!」
「ちょっと! いい加減に返してったら!」
「私は、江原さんの事は甲斐性無しだとは思ってません。これも独り言ですが」
「もう! 本当にいい加減に返してよ!」
そうして漸く自分の手に携帯を取り戻したらしい美幸が、先程までの泣き声は封印し、申し訳無さそうに詫びを入れてきた。
「うぅ……、江原さん。本当に傍若無人な姉ばかりですみません」
「それをあんたが言うわけ?」
「美幸だけには言われたくないわ!」
「いやはや……、本当に藤宮家は賑やかだね」
美幸の台詞にすかさず入った突っ込みに、とうとう我慢できずに吹き出してから、秀明は正直な感想を述べた。そして相手を安心させる様に言い聞かせる。
「分かったよ。彼女については何とかするから。安心して」
「本当ですか? ありがとう、江原さん!」
嬉しさと安堵感を滲ませたその声音に、秀明の顔も自然と緩む。
「ああ。だからもうお姉さん達と喧嘩しないで、遅いから今日はもう寝るんだよ?」
「はい、おやすみなさ」
「あなた達、さっきからこんな時間に何を騒いでるの! 自分の部屋でさっさと寝なさい!!」
「はい!」
「すみません!」
そして挨拶の途中でプツッと通話が切られた事に気を悪くしたりはせず、秀明は「彼女から大目玉を食らったか」と小さく笑いながら通話を終わらせた。すると絶妙のタイミングで携帯が鳴り響き、秀明は軽く目を見開く。
「今度は美恵ちゃんか」
そう言えば、さっきは混ざって無かったなと思いながら応答すると、「こんばんは。少し時間を貰って良いかしら?」と言う、平坦な声が伝わってきた。
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